自動運転を論ずるために頭に入れておくべき8つの法律

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Japanese law

自動運転に伴って生じる法律問題は多岐にわたっており,全体像を把握しながら検討を進めるには複雑すぎるようにも感じられます。

しかし,実際には自動運転の法律問題に関係してくる法律はさほど多くはありません。

主な法律は8つです。

この8つの法律を整理して頭に入れておけば,自動運転に伴う法律問題の議論を理解することができます。

自動運転に関する法的責任の検討の前提として,道路交通に関する国内法規について,現行の規定を概観してみます。

道路交通に関係する国内法規は,交通事故の法的責任に関する法律と,道路交通に関する法規制に大別されます。

1 交通事故の法的責任に関する法律

交通事故が発生した際の法的責任としては,刑事上の責任,民事上の責任及び行政上の責任があります。

 1.1 刑事上の責任

交通事故を起こし,他人の生命・身体を侵害した者は,刑事上の責任,すなわち,犯罪を犯した者に科される刑罰を受けます。

交通事故の刑事上の責任については,自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(以下「自動車運転行為処罰法」といいます。)に規定されています。

同法は,全6条の法律であり,第1条に定義規定,第2条及び第3条に故意に危険な自動車の運転行為を行った結果人を死傷させた者を罰する危険運転致死傷罪,第4条にいわゆる逃げ得防止のための発覚免脱罪,第5条に過失犯である過失運転致死傷罪,第6条に無免許運転で交通事故を起こした場合の加重規定を定めています。

これに対し,交通事故が自動車の欠陥等を原因として発生した場合,理論上は,製造者等に対して業務上過失致死傷罪(刑法第211条)の適用による刑事上の責任を問うことも考えられます。

しかし,実際には,法適用上又は事実認定上,刑事上の責任を問い得るのは極めて特殊な事案に限られます。

 1.2 民事上の責任

交通事故を起こし,他人の生命・身体又は財産を侵害した者は,民事上の責任を問われます。

交通事故における民事上の責任とは,加害者が被害者の生命・身体又は財産を侵害した場合に,これによって生じた損害を,被害者に対して賠償する責任です。

その法的根拠は,不法行為責任です。

自動車が関係する交通事故における民事上の責任は,事案に応じて4種類の法律の適用があります。

すなわち,自動車の運行が原因の交通事故については,運転者等に対し,民法709条(一般不法行為)及び同法715条(使用者責任)が適用されます。

また,自動車の運行が原因の交通事故のうち人的損害に関しては,主として自動車損害賠償保障法(以下「自賠責法」という。)が適用されます。

また,自動車の欠陥が原因の交通事故については,製造物責任法が適用されます。

さらに,国や地方公共団体の道路等の瑕疵が原因の交通事故については,国家賠償法第2条(営造物責任)が適用されます。

そして,運転者等の責任について履行を確保するため,自賠責法による強制保険及び国の自動車損害賠償保障事業と,任意保険の制度が設けられています。

なお,不法行為責任とは別に,自動車販売店や整備事業者の債務不履行責任が生じる場合もあり,この点については民法が適用されます。

 1.3 行政上の責任

交通事故を起こした者は,道路交通法違反をしている場合がほとんどです。

道路交通法違反をした者は,行政上の責任,すなわち,社会秩序の維持を害する行為をした場合に課される行政上の不利益として,免許の取消し,停止等の行政処分を受けます(道路交通法第103条以下)。

2 道路交通に関する法規制

道路交通に関する法規制として,道路交通法,道路運送車両法及び道路法があります。

2.1 道路交通法

道路交通法は,いわゆる交通ルールについて定めた法律です。

同法は,自動車等の交通方法を定めるとともに,運転者等の義務を規定し,運転免許について定めています。

同法には,運転者の義務として様々な具体的義務が規定されており,加えて,同法各条に規定される具体的義務規定の補充規定として,安全運転義務が規定されています(道路交通法第70条)。

道路交通法の規定に違反した場合,刑事上の責任として道路交通法違反による処罰に問われ得るとともに,行政上の責任として免許の取消し,停止等の行政処分を問われることがあります。

さらに,道路交通法に規定された運転者の義務は,交通事故の場合の法的責任に関して,刑事上の責任としての自動車運転行為処罰法違反による処罰及び民事上の責任としての損害賠償責任の解釈の前提となります。

したがって,自動運転導入に伴い,道路交通法における運転者の義務の内容をどのように改正するかは,交通事故における法的責任にも影響するものとして極めて重要な意味を有しています。

2.2 道路運送車両法

道路運送車両法は,自動車に関して定めた法律です。

同法は,自動車の登録等について定めるほか,保安基準,点検及び整備,並びに検査等について規定しています。

同法の保安基準並びに同法の下位規範である道路運送車両の保安基準は,自動運転の技術開発に対する規制として重大な意味を有しています。

さらに,保安基準は,自動車の欠陥が原因で交通事故が起きた場合,製造物責任の検討に関係してきます。

2.3 道路法

道路法は,道路に関して定めた法律です。

同法は,道路に関し,路線の指定及び認定,管理,構造,保全,費用の負担区分等について規定しています。

道路法は,道路等の瑕疵が原因で交通事故が起きた場合,国家賠償責任の検討に関係してきます。

3 参考文献

中山幸二「自動運転をめぐる法的課題」『自動車技術』Vol.69,p40,2015年

池田良彦「自動運転走行システムと刑事法の関係」『自動車技術』Vol.69,p35,2015年

 道路交通執務研究会編著『執務資料道路交通法解説』16-2版

4 引用文献

本記事は,中川由賀「自動運転導入後の交通事故の法的責任の変容~刑事責任と民事責任のあり方の違い~」『中京Lawyer』Vol.25,p.41,2016年からの引用です。

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