2019年5月,レベル3以上の自動運転の実用化に向けて,道路運送車両法が改正されました。
この改正について,5回にわたり解説しています。
第1回は,総論として,①道路運送車両法の位置付け,②レベル3以上で生じる問題,③改正のポイント4つを概観しました。
第2回から第5回まで,各論として,改正のポイント4つについて,1つずつ解説していきます。
第2回の今回は,改正のポイントの1つめとして,最も重要な改正点である保安基準対象装置への自動運行装置の追加について解説します。
1 保安基準とそれに関わる制度
前提として,道路運送車両法における保安基準と,それに関わる制度を概観しておきます。
道路運送車両法は,「第3章 道路運送車両の保安基準」において,自動車の構造,装置等が満たさなければならない技術基準を規定しています。
そして,自動車が製造されてから廃車されるまでのライフサイクルを通じて,自動車がその保安基準を満たすようにするため,①型式指定,②点検整備,③検査,④リコールという一連の制度を設けています。
製造過程では,自動車が市場に出される前に,「型式指定」によって,保安基準を満たしているかをチェックします。
使用過程では,使用者が日常的・定期的に「点検整備」を行って,保安基準を満たしているかをチェックします。
また,決められた時期に,国土交通大臣による「検査」を受けて,保安基準を満たしているかをチェックします。
さらに,不具合が発覚した際には「リコール」を行い,保安基準を満たすようにします。
道路運送車両法は,このような一連の制度により,保安基準を満たしていない車が公道を走ることがないようにし,道路交通の安全を確保しています。
2 保安対象装置への自動運行装置の追加
では,具体的に,どのような項目が保安基準の対象とされているのでしょうか。
道路運送車両法は,第40条で,自動車の構造に関し,9項目(長さ,幅及び高さ,最低地上高,車両総重量等)について保安基準の対象範囲とすることを定めています。
また,第41条で,自動車の装置に関し,20項目(原動機及び動力伝達装置,車輪及び車軸、そりその他の走行装置,操縦装置,制動装置等)について保安基準の対象範囲とすることを定めています。
従前は,「認知・判断・操作」を行うのはドライバーであり,システムが「認知・判断・操作」を行うことは想定されていなかったため,「認知・判断・操作」を行う装置は,保安基準の対象となる20項目には入っていませんでした。
ところが,レベル3以上の場合,「認知・判断・操作」をシステムが行うようになるため,「認知・判断・操作」に関する装置を道路運送車両法の規制の範囲内に組み込んでいく必要があります。
そこで,今回の改正では,第41条において,保安基準の対象となる装置に新たに「自動運行装置」を追加しました。
これにより,「自動運行装置」も,自動車が製造されてから廃車されるまでのライフサイクルを通じて,保安基準を満たす必要があり,①型式指定,②点検整備,③検査,④リコールという一連の制度におけるチェックを受けることになりました。
これが今回の改正において最も重要なポイントです。
3 今後の課題
今後,残された重要な課題は,この自動運行装置に関する保安基準の具体的な内容をいかに適切に規定していくかということです。
保安基準の具体的な内容は,道路運送車両法そのものでは規定されず,その下にある国土交通省令の「道路運送車両の保安基準」で規定されています。
「自動運行装置」の保安基準は,まだ策定に至っておらず,現在,国連のWP29の議論も踏まえながら,検討が進められています。
「自動運行装置」の保安基準は,これまでの物理的な装置に関する保安基準とは,根本的に発想が異なってくると思われますし,国連のWP29を通じた国際協調も必要となるため,策定作業は非常に大変な労力と時間を伴う作業であると思われます。
しかし,「自動運行装置」の保安基準をいかに適切に規定できるかは自動運転車の安全確保に直結するため,適切な規定の策定が強く望まれます。
4 引用文献・参考文献
中川由賀「法の視点から見たこれからの点検整備・車検制度のあり方」『自動車技術』自動車技術会,2019年7月
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