自動運転の実用化に向けて行われた道路運送車両法の改正の解説の第5回です。
第5回の今回は「特定整備」,「技術情報の提供の義務付け」の規定について解説します。
まず,前半で特定整備について,後半で技術情報の提供の義務付けについて解説します。
それぞれについて,まず,従前の規定について解説し,次に,今回の改正点について解説します。
1 特定整備
1 従前の規定
1 「点検整備」の位置付け
まず,前提として,「点検整備」の位置付けをおさらいしておきます。
道路運送車両法は,自動車が製造されてから廃車されるまでのライフサイクルを通じて,自動車が保安基準を満たすようにするため,①型式指定,②点検整備,③検査,④リコールという一連の制度を設けています。
製造過程では,自動車が市場に出される前に,「型式指定」によって,保安基準を満たしているかをチェックします。
使用過程では,使用者が日常的・定期的に「点検整備」を行って,保安基準を満たしているかをチェックします。
また,決められた時期に,国土交通大臣による「検査」を受けて,保安基準を満たしているかをチェックします。
さらに,不具合が発覚した際には「リコール」を行い,保安基準を満たすようにします。
2 「分解整備」の制度
このように,使用過程では,使用者が日常的・定期的に「点検整備」を行って,保安基準を満たしているかをチェックしなければならないわけですが(47条),「点検整備」には,「日常点検整備」(47条の2)と「定期点検整備」(48条)があります。
「定期点検整備」については,専門的な知識・技術が必要になってくるため,使用者自身が行うのではなく,自動車整備事業者に自動車を持ち込んで行うのが一般的です。
そして,道路運送車両法は,従前,「整備」のうち,特に,自動車の安全性に大きな影響を与えるものを「分解整備」として規定していました(同法49条2項)。
そして,自動車整備事業者が「分解整備」を行うためには,認証基準をクリアし,地方運輸局長の認証を受けなければならないとしていました(同法78条)。
2 今回の改正点
ただ,この「分解整備」の対象となる装置には,自動運行装置等の電子装置は含まれていませんでした。
そのため,従前の道路運送車両法のままでは,認証を受けていない自動車整備事業者であっても,自動運行装置等の電子装置の整備又は改造を行うことができるようになっていました。
しかし,レベル3以上の自動運転車の社会実装に伴い,自動運行装置の点検整備を適切に行うことが非常に重要になってきます。
そこで,今回の改正では,この「分解整備」の名称を「特定整備」という名称に変更した上で,「特定整備」の対象となる整備に「自動運行装置」の整備等を追加することになりました(49条2項)。
これによって,自動車整備事業者が自動運行装置の整備等を行うためには,地方運輸局長の認証を受けなければならないことになりました(78条1項)。
2 技術情報の提供の義務付け
1 従前の規定
従前の道路運送車両法の規定でも,メーカーからユーザーへの技術情報提供は義務づけられていました(57条の2)。
しかし,メーカーから自動車整備事業者への技術情報提供は義務付けらえれていませんでした。
2 今回の改正点
ただ,今後,レベル3以上の自動運転車の社会実装に伴い,自動走行装置の点検整備が適切になされる必要があります。
そして,そのためには,自動車整備事業者が自動走行装置の点検整備のための技術情報を有していることが必要となります。
そこで,今回の改正では,メーカーから自動車整備事業者への技術情報も義務付けられました(57条の2第1項)。
3 まとめ
このように,今回の道路運送車両法の改正では,今後,自動運行装置の点検整備は,「特定整備」を行うための「認証」を受けた自動車整備事業者によってのみ行われることとされました。
そして,メーカーから自動車整備事業者への技術情報の提供が義務付けられました。
これによって,使用過程における点検整備の適切化が図られることになります。
今後の課題ですが,自動運行装置の点検整備を行うためには,技術情報はもちろんのこと,必要な機器等を備えるとともに,整備士の研修が必要となってきます。
この点,自動車整備事業者にとっては,相当の負担増となることが懸念されます。
しかし,自動運行装置の点検整備が適切になされることは,レベル3以上の自動運転車の安全確保にとっては不可欠であり,極めて重要な課題です。
4 引用文献・参考文献
中川由賀「法の視点から見たこれからの点検整備・車検制度のあり方」『自動車技術』自動車技術会,2019年7月