前回は,国連のWP1における自動運転と道路交通条約に関する2018年及び2019年の議論の状況を全体的に見てきました。
WP1は,自動運転と道路交通条約の問題について,3つのテーマを並行して議論しています。
3つのテーマとは,
①自動運転システム作動中に運転者が行うことが許されるアザーアクティビティ
②車外からの操作
③高度・完全自動運転車両
に関する議論です。
今回は,このうち,「車外からの操作に関する議論」を整理したいと思います。
この問題は,「官民ITS構想・ロードマップ2019」が2020年までを実現期待時期としている「限定地域での無人自動運転移動サービス」に深く関わる「遠隔型自動運転システム」に関係する重要な問題です。
「車外からの操作に関する議論」に関して,WP1における議論のこれまでの流れと現在の状況を整理することにより,遠隔型自動運転システムに関する国際的議論の方向性を確認したいと思います。
1 公道実証実験に関する合意
WP1 は,2016年3月会議において,「市場化・サービス化」ではなく,「公道実証実験」に関しては,
「自動運転車両の実験について,車両のコントロールが可能な能力を有し,それが可能な状態にある者がいれば,その者が車両内にいるかどうかを問わず,現行条約の下で実験が可能」
と合意しました。
この合意がなされるまでは,いわゆる遠隔型の公道実証実験を行うことが道路交通条約に反しないか否かに疑義がありました。
そのため,WP1がこのような合意をしたことの意義は大きいものがありました。
この合意を受けて,日本では,2017年6月,警察庁が「遠隔型自動運転システムの公道実証実験に係る道路使用許可の申請に対する取扱いの基準」を公表しました。
また,2018年3月,国土交通省が「遠隔型自動運転システムを搭載した自動車の基準緩和認定制度」を創設しました。
そして,遠隔型の公道実証実験が次々と実施されるようになりました。
2 リモートコントロールパーキングに関する合意
このように,「車外からの操作」に関しては,実験については,道路交通条約下で認められることが明らかとなりました。
次に問題となってくるのは,「車外からの操作」を市場化・サービス化といった社会実装として行うことが道路交通条約下で認められるか否かです。
WP1は,2017年9月会議において,「車外からの操作」のうち,外部から装置を使って駐車の操作を行う「リモートコントロールパーキング」については,道路交通条約下で認められるという合意,より正確には「リモートコントロールパーキングは,道路の安全を損なわない」という合意をしました。
また,WP1 は,この2017年9月会議において,今後,「車外からの操作」に関する議論に取り組んでいくことを合意しました。
3 「リモートコントロールパーキング以外の車外からの操作」の「社会実装」に関する議論
WP1は,2017年9月会議以降,2018年,2019年にかけて,「車外からの操作」の「社会実装」が道路交通条約下で認められるか否かについての議論を重ねてきています。
ただ,自動運転に関する3つのテーマのうち「高度・完全自動運転に関する議論」が優先されていることもあって,「車外からの操作に関する議論」については,2019年9月会議段階においても,決議には至っておらず,継続審議の状態が続いています。
2019年9月会議までの段階で決議には至っていませんので,まだ不確定な状態ではありますが,2019年9月会議までの議論を見ていくと,概ね以下のような方向で議論が進んでいます。
まず,「車外からの操作」に関し
①リモートコントロールパーキング
②リモートドライビング(従来型自動車又は運転支援の場合)
③リモートドライビング(自動運転車の場合)
④その他考慮すべき事項
について整理がなされています。
そして,リモートコントロールパーキングはもちろんのこと,リモートドライビングについても,
一定の条件を満たすならば,ジュネーブ道路交通条約及びウィーン道路交通条約の下で許容される
という方向で議論がなされています。
リモートドライビングが満たすべき一定の条件については,当該自動運転車の自動運行システムがドライバーの介入を必要とするか否かによって異なってきます。
このように,「車外からの操作に関する議論」については,2019年9月会議段階ではまだ継続審議の状態が続いており,まだ不確定な状況でありますが,今後,更なる議論を経た上で,決議に至ることが想定されます。
そのため,この問題については,今後もWP1の議論を注視し,WP1が最終的に決議に至った段階で,改めて詳しく書きたいと思います。
4 引用文献・参考文献
みずほ情報総研株式会社「平成28年警察庁委託事業 自動運転の段階的実現に向けた調査研究報告書」2017年
ECE/TRANS/WP1/153
ECE/TRANS/WP1/156
Informal document No.5,March.2019
ECE/TRANS/WP1/2019/2
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