自動運転の実用化に向けた課題として,「道路交通法規を交通の実情に合わせる」ことが必要です。
なぜなら,従来型自動車の場合,ドライバーは,道路交通法規を守りつつも,交通の流れに乗るため,ときには交通事故を防ぐために,あえて道路交通法規より交通状況に沿った行動をとることを優先しています。
これに対し,自動運転車両の場合,メーカーは,開発段階において,道路交通法規違反をするような自動車を開発することはできず,あくまで道路交通法規を遵守するという姿勢を貫かざるを得ません。
そのため,自動運転の実用化のためには,「交通の実情に照らしたときに合理性に疑問がある規定」については,「道路交通法規を交通の実情に合わせる」ことが必須となってきます。
では,(1)道路交通法規のどの規定を改正することが必要でしょうか。
また,(2)そのような改正をすることは道路交通条約に反しないでしょうか。
(1)について,2017年3月の警察庁発表の報告書を基に概観し,(2)について,1949年ジュネーブ道路交通条約の条文を基に検討してみます。
目次
1 問題の所在
2 道路交通法規のどの規定を改正することが必要か
では,道路交通法規のどの規定を改正することが必要でしょうか。
この点については,2016年6月から,警察庁において,「自動運転の段階的実現に向けた調査検討委員会」が検討を行い,2017年3月に,「自動運転の段階的実現に向けた調査研究報告書」(警察庁委託事業・みずほ情報総研株式会社)が公表されています。
この報告書では,高速道路における課題として,5つの課題が指摘されました。
1つめは,本車線の速度です。
2つめは,合流のときの速度です。
3つめは,渋滞時の合流方法です。
4つめは,渋滞時の分流方法です。
5つめは,緊急時の路側帯通行・停車です。
以下,それぞれ,課題をまとめ,関係条文を挙げていきます。
なお,一般道路における課題も存在しますが,同報告書には盛り込まれていませんので,今回の記事では省略します。
2.1 本車線の速度
2.2 合流のときの速度
2.3 渋滞時の合流方法
2.4 渋滞時の分流方法
2.5 緊急時の路側帯通行・停車
3 道路交通法規を改正することは道路交通条約に反しないか
では,このような課題を解決するために,道路交通法規を改正することは,その上位の法規である1949年ジュネーブ道路交通条約に反しないでしょうか。
1949年ジュネーブ道路交通条約の条文を基に検討してみます。
なお,この点については,「自動運転の段階的実現に向けた調査研究報告書」に盛り込まれているわけではなく,私の意見であることをお断りしておきます。
ジュネーブ道路交通条約は,第1章から第7章まであるところ,このうち「第2章 道路交通に関する規則」の各条文に反しないかということが問題となります。
「第2章 道路交通に関する規則」には,第6条から第16条まであります。
各課題について,関係する条文を挙げ,検討してみました。
結論としては,どの課題についても,道路交通法規を交通の実情に合わせて改正することは,現行の道路交通条約に反しないと考えます。
3.1 本車線の速度
3.2 合流のときの速度
3.3 渋滞時の合流方法
3.4 渋滞時の分流方法
3.5 緊急時の路側帯通行・停車
4 改正する際に必要なこと
自動運転の実用化のための「必要性」があり,道路交通条約に反しないという「許容性」があるとしても,1点,改正する際に必要なことがあると考えます。
課題1の「本線車道の速度」について,現行の速度規制を見直して,交通の実情に沿った実勢速度に合わせていく際には,ドライバーの速度規制に関する意識を根本的に変えていくための方策をきちんととるべきだということです。
速度規制を実勢速度に合わせて上げた上,これまでのように「多少のスピード違反は当たり前」のような状況となったのでは,高速度走行による交通事故が多発しかねません。
そのようなことを防ぐため,速度規制を実勢速度に合わせて上げるに際しては,これまでのドライバーの意識を変え,「速度規制は厳守する」交通社会を作るための方策をきちんととる必要があると考えます。