警察庁の報告書から自動運転の法整備の方向性を見る~後編

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前回に引き続き,2018年4月に警察庁のWebサイトにおいて公表された自動運転に関する報告書を読む際のポイントを書いていきます。

報告書は,

第1章 調査研究の概要

第2章 ヒアリング

第3章 海外視察

第4章 自動運転の段階的実現に向けた法律上・運用上の課題の検討

という構成になっており,最も重要なのは第4章です。

第4章では,第1節でレベル3以上の自動運転の自動運転システムの実用化を念頭に入れた交通法規等の在り方について検討しており,前回はここまで見てきました

今回は,第4章のうち

第2節 隊列走行に関する課題

第3節 その他の課題

 1 遠隔型自動運転システムに関する課題

 2 社会的受容性に関する課題

について見ていきます。

「隊列走行」と「遠隔型自動運転システム」は,自動運転システムのさまざまな態様の中の一つの態様であり,各論的な位置付けになります。

ただ,どちらも2017年から日本でも公道実証実験が始められているため,早急に法律上・運用上の課題を検討しなければならない分野です。

 

1 隊列走行に関する課題

隊列走行とは,数台の車両を電子的に連結して走行させる技術であり,主に高速道路でのトラックの走行を念頭に置いて技術開発が進められています。

報告書は,隊列走行に関する課題に関して,

①日本における動向

②海外における動向

③隊列走行の形態

を踏まえて

④検討結果

を述べています。

 

1-1 日本における動向

報告書は,「官民ITS 構想・ロードマップ2017」が

2017年度から後続有人の2台隊列走行の公道実証実験を開始し,

2018年度から後続無人の公道実証実験を開始し,

2018年度までに,電子牽引の要件,3台以上・25m超え隊列走行の要件等を検討する

としていることに言及し,制度の在り方の検討の必要性を指摘しています。

 

1-2 海外における動向

報告書は,ヨーロッパでの隊列走行の実証実験や法律上・運用上の課題への取組が進んでいることに言及しています。

ただ,日本では,運転者不足への対応を踏まえた後続無人隊列走行も念頭に置いているのに対し,ヨーロッパでは,トラック運転手の雇用確保のため,後続有人隊列走行を念頭に置いており,方向性の違いがあります。

 

1-3 隊列走行の形態

道路交通法には,数台の車両を連結して走行させる「牽引」に関する規定が置かれています。

この規定は,元々は,数台の車両を「物理的」に連結して走行させることを想定した規定です。

隊列走行は,数台の車両を「電子的」に連結して走行させる技術であり,この新しい技術を,道路交通法上の「牽引」という概念に「準じる」とするか,「準じない」とするかによって,法律の整備のポイントが異なってきます。

報告書は,

「隊列走行を牽引に準じたものとして捉える場合」

「隊列走行を牽引に準じたものとして捉えない場合」とに分けて

前者の場合であれば,先頭車両の運転者が全車両の運転者であるものの

後者の場合であれば,先頭車両の運転者が全車両の運転者であると捉えられないため,

①後続車両有人の場合の,後続車両の運転者の義務の検討

②後続車両無人の場合の,道路交通条約との整合性等の問題の検討

が必要となってくると指摘しています。

 

1-4 検討

1-4-1 検討の前提

報告書は,検討の前提として,今後,隊列走行の電子連結技術を牽引における連結装置に準じたものとして関係省庁の法令で定義されたと仮定して,検討することとしています。

また,報告書は,「なお,ジュネーブ条約においては,一単位として運行されている車両又は連結車両には,それぞれ運転者がいなければならないと定められているため,隊列走行と国際条約との整合性についても更に検討する必要がある。」と指摘しています。

 

1-4-2 論点

報告書は,隊列走行を牽引に準じたものと捉えた場合に検討しなければならない論点にとして,主に8つの論点を挙げています。

8つの論点とは,

①車間距離

②走行速度

③車列の台数・全長

④走行すべき車線

⑤合分流時における周囲の他の交通主体に係る義務や注意事項

⑥先頭車両の運転手に係る義務

⑦運転免許制度等の在り方

⑧連結が途切れた場合・後続車に不測の事態が発生した場合の対応

です。

 

①車間距離については,

「隊列走行を牽引に準じたものと捉える」場合は,道路交通法26条の車間距離の規定が適用されないことになります。

ただ,報告書は,技術がいまだ確立していないことや制動距離に影響を与える要因を踏まえ,隊列走行における適切な車間距離について後続車両の取扱いや具体的な技術の開発状況等を踏まえて検討する必要性があることを指摘しています。

 

②走行速度については,

現在の法律では,標識による指定のない場合,大型貨物自動車等は,高速自動車国道(方向別に分離されていないものを除く。)の本線車道において,最高速度80km/h,最低速度50km/hとなっています(道路交通法施行令27条)。

この点,報告書は,隊列走行について,この現行規定どおりでよいか否かを検討する必要があることを指摘しています。

 

③車列の台数・全長については,

現在の法律では,例外を除き,2台・25mを超えての牽引が許されていません(道路交通法59条)。

この点,報告書は,隊列走行について,公道実証実験の結果に基づき安全性や社会的受容性を踏まえて検討すべきことを指摘しています。

 

④走行すべき車線については,

現在の法律では,牽引自動車は,基本的には第一車両通行帯を通行しなければなりません(道路交通法第75条の8の2)。

この点,報告書は,隊列走行について,専用レーン・優先レーンを設けるべきという指摘があることや,第二車両通行帯や第三車両通行帯を通行することの是非についての議論があり,更に検討すべき必要があることを指摘しています。

 

⑤合分流時における周囲の他の交通主体に係る義務や注意事項については,

車列の台数が3台になった場合,車列の全長が長くなります。

そのため,報告書は,合分流時の他の交通主体への周知・注意喚起等についての義務・注意事項を検討する必要があることを指摘しています。

 

⑥先頭車両の運転者に係る義務

隊列走行を牽引に準じたものと捉えた場合,先頭車両の運転者は,全車両の運転者になります。

そのため,報告書は,先頭車両の運転者に係る義務について,技術開発の方向性に即して更に検討する必要があると指摘しています。

 

⑦運転免許制度等の在り方

現在の法律では,重被牽引車を牽引する場合は牽引免許が必要(道路交通法第85条)です。

この点,報告書は,従前の物理的牽引と新しい電子的牽引との違いに着目し,新たな免許・講習が必要であるという指摘や,従前の牽引免許は不要ではないかとの指摘があることに言及し,今後の検討の必要性を指摘しています。

 

⑧連結が途切れた場合・後続車に不測の事態が発生した場合の対応

報告書は,万が一連結が途切れた場合や,後続無人隊列走行の場合に不測の事態が生じた場合の対応の検討の必要性についても指摘しています。

 

1-4-3 その他

報告書は,その他として,「隊列走行を牽引に準じたものと捉えない」こととなった場合に検討しなければならない論点についても言及し,

①車間距離

②セカンダリアクティビティ

③後続無人隊列走行

という3つの論点を指摘しています。

 

①車間距離については,

「隊列走行を牽引に準じたものと捉える」場合は,道路交通法26条の車間距離の規定が適用されないのに対し,

「隊列走行を牽引に準じたものと捉えない」場合は,この規定が適用されることになります。

報告書は,具体的な技術や走行環境等に即した車間距離の検討の必要性を指摘しています。

 

②セカンダリアクティビティについては,

「隊列走行を牽引に準じたものと捉える」場合は,先頭車両の運転者が全車両の運転者であるものの,

「隊列走行を牽引に準じたものと捉えない」場合は,先頭車両の運転者が全車両の運転者であると捉えられないため,後続車両有人の場合の後続車両の運転者のセカンダリアクティビティの範囲の問題が生じます。

報告書は,この点についても,具体的な技術や走行環境等に即した車間距離の検討の必要性を指摘しています。

 

③後続無人隊列走行については,

「隊列走行を牽引に準じたものと捉える」場合は,先頭車両の運転者が全車両の運転者であるものの,

「隊列走行を牽引に準じたものと捉えない」場合は,先頭車両の運転者が全車両の運転者であると捉えられないため,

後続車両がレベル4以上である必要があり,技術開発の方向性,道路交通条約との整合性等に関する国際的議論の状況を踏まえた検討が必要となってくると報告書は指摘しています。

 

私見ですが,今回の報告書では隊列走行に関する課題について道路交通法の個々の関連条文ごとに検討結果が示されており,国内法レベルでの課題の洗い出しはかなり進んだように感じます。

ただ,後続無人隊列走行については,道路交通条約との整合性の問題があるため,国際的議論を深化させていく必要があると考えます。

 

2 その他の課題①~遠隔型自動運転システム

遠隔型自動運転システムについては,警察庁が2017年6月に公道実証実験に関する取扱いの基準を公表し,2017年12月から公道実証実験が実施されています。

遠隔型自動運転システムの実用化に向けた課題については,警察庁が昨年2017年3月に公表した報告書において,

①運転免許制度

②刑事上の責任等

③遠隔側の管理体制

についての検討の必要が挙げられています。

今回の報告書においても,

この3点等について引き続き検討すべきことが述べられています。

また,報告書は,レベル3以上の遠隔型自動運転システムについて道路交通条約との整合性等の議論を踏まえて更に検討すべきと述べています。

私見ですが,遠隔型自動運転システムに関しては,2017年9月,WP1において,リモートコントロールパーキングについては道路安全を損なわないという合意がなされたものの,それ以外の遠隔型自動運転システムについては,現在,WP1において,議論が行われている最中であり,2018年3月会議でも審理継続とされており,国際的議論の収束にはいまだ時間を要するように思われます。

 

3 その他の課題②~社会的受容性

報告書は,ユーザーに対して自動運転システムに関する正しい理解を促し,他の交通主体に対しても周知することを通じて,社会的受容性を醸成すべきこと指摘しています。

また,事故が起きることを想定して,回避策や被害者の救済策・支援策を検討し,刑事責任・民事責任や行政法規上の義務を検討すべきことについても指摘しています。

私も,社会的受容性が醸成されるには,

①事故が起きないための規制が適切になされていること

②万が一事故が起きたときの法的責任が適切・明確に決められていること

が不可欠だと考えます。

 

4 おわりに

報告書が

「緊急時又は限定領域から出る際に運転を引き継ぐことが予定されている者が車両内に存在するものは両条約と整合的であることについて,コンセンサスが形成されつつある状況にある。」

と指摘したとおり,国際的に,

レベル3及びレベル4の一部がウィーン道路交通条約とジュネーブ道路交通条約と整合的であることについてのコンセンサスが形成されつつある

と言っていい状況になってきました。

加えて,WP1において,

残りのレベル4やレベル5を見据えた「条約を補助する文書(非拘束的なもの)」の策定作業が進んでおり早ければ2018年内に完成される可能性もある

という状況にあります。

このような国際的議論の状況を踏まえて,国内的な法整備を進めていく必要があり,万が一事故が起きたときを見据えて,法的責任に関する議論を深めていく必要があるとともに,証拠収集のための体制整備を急ぐ必要があると考えます。

 

5 引用文献・参考文献

警察庁委託事業,みずほ情報総研株式会社「技術開発の方向性に即した自動運転の段階的実現に向けた調査研究報告書」,2018年3月

同概要,2018年3月

高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議「官民 ITS 構想・ロードマップ 2017」2017年 5 月

警察庁委託事業,みずほ情報総研株式会社「自動運転の段階的実現に向けた調査研究報告書」,2017年3月

警察庁交通局「高度自動運転システムの実用化を念頭に入れた交通法規等の在り方について」,2017年12月

WP1第75回報告書

 

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