2019年5月に行われた,レベル3以上の自動運転の実用化に向けた道路運送車両法の改正の解説の第3回です。
第1回は,総論的な解説をしました。
第2回は,改正のポイントの1つめとして,保安基準対象装置への自動運行装置の追加を解説しました。
第3回の今回は,改正のポイントの2つめとして,プログラムの改変等の許可制度について解説します。
1 従前の制度
従来型自動車の場合,販売後,使用過程において,リコールの場合は別として,同一型式全ての自動車について一律に改造がされるということは想定されていませんでした。
そのため,従前の道路運送車両法には,このような改造を想定した規定は置かれていませんでした。
2 許可制度の新設
ところが,自動運転車の場合,販売後,使用過程において,自動運行装置等に組み込まれたプログラム等のアップデートやバージョンアップによって,同一型式全ての自動車について一律に改造することも想定されます。
しかも,有線による改造だけではなく,無線による改造も技術的に可能となります。
このようなプログラム等のアップデートやバージョンアップによる改造が適切になされなければ,自動運転車の安全性は確保できません。
そこで,今回の道路運送車両法の改正では,「プログラムの改変等の許可制度」が新設されました。
3 具体的内容
では,許可制度の具体的内容を見ていきたいと思います。
(1) 許可制度の対象になる行為
許可制度の対象になる行為は,99条の3第1項の1号と2号に定められた「特定改造等」と呼ばれる2つの行為です。
1号は,「プログラムの改変による自動車の改造行為」で,「プログラムが適切でなければ保安基準に適合しなくなるおそれがあるもの」を,「電気通信回線を使用する方法等で行う行為」です。
2号は,1号の改造をさせる目的で,使用者等にプログラム等を提供する行為です。
改造行為と提供行為の全てを対象とするのではなく,「プログラムが適切でなければ保安基準に適合しなくなるおそれがある」重要なものを許可制の対象としています。
(2) 許可の基準
許可されるためには,99条の3第3項の1号と2号に定められた2つの基準を満たす必要があります。
1号は,「申請者」が「特定改造等を適格に実施するに足りる能力及び体制を有するものとして国土交通省令で定める基準」に適合することです。
2号は,「プログラム等の改変により改造された自動車」が「保安基準」に適合することです。
つまり,「申請者」と「プログラムの改変によって改造された自動車」が基準に適合していることが必要になります。
4 まとめ
このように,今回の道路運送車両法の改正では,「プログラムの改変等の許可制度」によって,装置の中に組み込まれたソフトを規制の範囲に取り込みました。
前回解説した「保安対象装置への自動運行装置の追加」によって,装置というハードを規制の範囲に取り込み,今回解説した「プログラムの改変等の許可制度」によって,装置の中に組み込まれたソフトを規制の範囲に取り込み,これらによって,自動運転車の安全性を確保していくことになりました。
5 引用文献・参考文献
中川由賀「法の視点から見たこれからの点検整備・車検制度のあり方」『自動車技術』自動車技術会,2019年7月