自動運転の実用化に向けた道路交通法の改正(1)

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2019年5月の道路交通法の改正について,4回にわたり,整理しています。

第1回は,総論として,①道路交通法の位置付け,②レベル3以上で生じる問題,③改正のポイント3つを概観しました。

第2回の今回は,改正のポイントの1つめとして,「自動運行装置」「運転」の定義について説明します。

1 「自動運行装置」の定義

道路交通法2条には,この法律で使われる言葉の定義が規定されています。

 

改正によって,この定義規定の中に「自動運行装置」の定義が加えられました。

2019年5月には,道路運送車両法も改正されており,「自動運行装置」の定義が加えられています。

2つの法律で同じ定義にするため,道路交通法は,道路運送車両法の定義を引用しています。

道路交通法2条13の2

「自動走行装置」 道路運送車両法(略)第41条第1項第20号に規定する自動運行装置をいう。

 

道路運送車両法41条2項

前項第20号の「自動運行装置」とは、プログラム(略)により自動的に自動車を運行させるために必要な,自動車の運行時の状態及び周囲の状況を検知するためのセンサー並びに当該センサーから送信された情報を処理するための電子計算機及びプログラムを主たる構成要素とする装置であつて,当該装置ごとに国土交通大臣が付する条件で使用される場合において,自動車を運行する者の操縦に係る認知,予測,判断及び操作に係る能力の全部を代替する機能を有し,かつ,当該機能の作動状態の確認に必要な情報を記録するための装置を備えるものをいう。

 

長い文ですが,短く言うと,「自動運行装置」とは,

「自動車の操縦に関する認知・予測・判断・操作の全部を代替する機能」と「作動状態のデータを記録する機能」を持つ装置

です。

 

つまり

「自動運行装置」とは,レベル3以上の自動運転システムで,データ記録機能を付けてるもの

です。

 

2 「運転」の定義

2019年5月の改正では,道路交通法2条の定義規定の中の「運転」の定義が修正されました。

 

道路交通法2条17

「運転」 道路において,車両又は路面電車(略)をその本来の用い方に従って用いること(自動運行装置を使用する場合を含む。)をいう。

 

改正では,「運転」の定義の条文に,「自動運行装置を使用する場合を含む。」という言葉が加えられました。

つまり

「自動走行装置を使って自動車を使う行為」を「運転」という概念に含む

ことにしました。

 

3 改正の意味

では,このような「自動運行装置」「運転」の定義を設けたことが持つ意味は何でしょうか。

2点あります。

 

1点目は

レベル3の自動運転が道路交通法許容されることを明らかにしたこと

です。

 

2点目は

「自動運行装置を使う行為」を道路交通法上の「運転」という概念に含めてしまうことによって,「自動運行装置を使う行為者」に道路交通法上の「運転者」に課せられた義務を課すことにしたこと

です。

警察庁が,改正に先立って,2018年12月に公表された「道路交通法改正試案」においても,以下のとおり,自動運行装置を使う人に交通ルールが適用されることを明らかにしています。

 

「なお,SAEレベル3の自動運転システムを使用する運転者は,常に同システムから運転操作を引き継ぐことを求められる可能性があること等を踏まえ,現行法上,運転者に課せられている安全運転の義務(法第70条)をはじめ,次に掲げる項目以外の交通ルールについては,引き続き適用することとしています。」

 

「自動運行装置を使う行為」を道路交通法上どのように位置づけていくかについては,立法の方法としては,2つの方法が考えられたと思います。

1つめの方法は,「自動運行装置を使う行為」を「運転」とういう概念に含めてしまい,「自動運行装置を使って自動車を運行する人」に,道路交通法上の「運転者」に対する義務規定を適用していくという方法です。

2つめの方法は,「自動運行装置を使う行為」を「運転」という概念には含めず,全く別の概念として,道路交通法の定義に規定し,その新たな行為に対する義務規定を別途規定していくという方法です。

今回の道路交通法の改正の方針は,1つめの方法を採っています。

 

次回は,改正のポイントの2つめとして,自動運行装置を使う「運転者の義務」について見ていきたいと思います。

 

4 引用文献・参考文献

警察庁「道路交通法改正試案」2018年12月

道路交通法改正案2019年3月

明治大学自動運転社会総合研究所「自動運転と社会変革-法と保険」商事法務,2019年7月

 

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