自動運転の実用化に向けた道路交通法の改正について,4回にわたり,解説しています。
第1回は,総論として,①道路交通法の位置付け,②レベル3以上で生じる問題,③改正のポイント3つを概観しました。
第2回は,ポイントの1つめの「自動運行装置」「運転」の定義について解説しました。
第3回は,ポイントの2つめの「自動運行装置を使う運転者」の「義務」について解説します。
1 運転者の義務
「自動運行装置を使う運転者」の「義務」について解説する前提として,まず,道路交通法において,「運転者」にどのような義務が課されているかについて説明します。
警察庁の報告書は,道路交通法上の運転者の義務を3つの類型に整理しています。
3つの類型とは
①運転操作に係る義務
②安定操作確保義務
③その他の義務です。
①運転操作に係る義務とは,例えば,制限速度順守義務,車間距離保持義務のように,運転操作そのものに関する義務です。
②安定操作確保義務とは,例えば,飲酒運転禁止,携帯電話禁止,画像注視禁止のように,①の「運転操作に係る義務」を確実に履行するために上乗せで課せられる義務です。
③その他の義務とは,例えば,事故時の救護義務,運転免許提示義務のように,運転操作とは直接関係ない義務です。
道路交通法は,①運転操作に係る義務に関する規定を多数設けていますが,これら個々の規定によってもカバーし切れない部分を補完するために,70条に安全運転義務という抽象的な義務規定を設けています。
道路交通法70条
車両等の運転者は,当該車両等のハンドル,ブレーキその他の装置を確実に操作し,かつ,道路,交通及び当該車両等の状況に応じ,他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。
2 自動運行装置を使う者の位置付け
前回解説したように,今回の改正によって,
「自動運行装置を使って自動車を使う行為」は「運転」という概念に含む
こととされました。
そのことによって,
「自動運行装置を使う者」には,安全運転義務をはじめ道路交通法上の「運転者」の義務が課される
ことになります。
3 新設された義務規定
今回の改正で新設された条文のうち,「自動運行装置を使う者」に対する「義務」の規定は,道路交通法71条の4の2です。
この条文の内容を見ていきたいと思います。
道路交通法71条の4の2
1項
自動運行装置を備えている自動車の運転者は,当該自動運行装置に係る使用条件(略)を満たさない場合においては,当該自動運行装置を使用して当該自動車を運転してはならない。
2項
自動運行装置を備えている自動車の運転者が当該自動運行装置を使用して当該自動車を運転する場合において,次の各号のいずれにも該当するときは,当該運転者については,第71条第5号の5の規定は,適用しない。
1 当該自動車が整備不良車両に該当しないこと
2 当該自動運行装置に係る使用条件を満たしていること
3 当該運転者が,前2号のいずれか該当しなくなった場合において,直ちに,そのことを認知するとともに,当該自動運行装置以外の当該自動車の装置を確実に操作することができる状態にあること
長い文ですが,短く言うと
1項では,
自動運行装置の使用条件を満たさない場合は,自動運行装置を使用してはならない
ことが規定されています。
2項では,
自動運行装置使用中,3要件を満たす場合に限って,運転者に71条5号の5の禁止規定を適用しない
ことが規定されています。
71条の5号の5の禁止規定というのは,運転者の義務の3類型のうち「②安定操作確保義務」に当たる携帯電話禁止規定と画像注視禁止規定のことです。
これを見て,「レベル3では携帯電話が使える!」と喜ぶのはとても危険な間違いです。
大事なのは,「3要件を満たす場合に限って」という点です。
では,3要件とは何か,条文をもう一度確認してみます。
道路交通法71条の4の2第2項
(略)
1 当該自動車が整備不良車両に該当しないこと
2 当該自動運行装置に係る使用条件を満たしていること
3 当該運転者が,前2号のいずれか該当しなくなった場合において,直ちに,そのことを認知するとともに,当該自動運行装置以外の当該自動車の装置を確実に操作することができる状態にあること
長い文ですが,短く言うと,
①整備不良車両でないこと
②使用条件を満たしていること
③上記①②を満たさなくなったときに,直ちに,認知し,確実に操作できる状態にあること
ということです。
自動運行装置使用中,この3要件を満たす場合に限って,携帯電話と画像注視が許されるわけですが,ひっくり返して言うと,
この3要件を満たさなければ,携帯電話も画像注視も禁止
ということです。
レベル3の自動運転車の使用者がシステムを過信して事故を起こすようなことがないようにするため,この点を十分啓発していくことがとても大切です。
4 運行装置使用中の義務と作動継続困難時の運転引受け義務
道路交通法71条の4の2第2項において
①整備不良車両でないこと
②使用条件を満たしていること
③上記①②を満たさなくなったときに,直ちに,認知し,確実に操作できる状態にあること
という3要件を満たさなければ,携帯電話も画像注視も禁止されているということから,次の2点が導かれます。
1点目は,道路交通法上,運転者は,自動運行装置を使用中
①整備不良車両に該当するようになった場合
②使用条件を満たさなくなった場合
直ちに,そのことを認知するとともに,確実に操作することができる状態にある義務を負っている
ということです。
2点目は,道路交通法上,運転者は,
①整備不良車両に該当するようになった場合
②使用条件を満たさなくなった場合
直ちに,そのことを認知するとともに,確実に操作する義務を負う
ということです。
これらの点に関して,具体的に事故が発生した際に,更に問題となってくるのは,
自動運行装置の使用中,具体的にどの程度の緊張状態を保つ義務があるのか
という問題と
運転引き受け義務は,具体的にどのような場合に発生するのか
という問題です。
この点について,ドイツは,2017年の道路交通法改正において,具体的な条文を設けましたが,日本は,今回の道路交通法改正において,具体的条文は設けていません。
ただ,この点に関する警察庁の方針は,警察庁が2018年12月に道路交通法改正試案とともに発表した「技術開発の方向性に即した自動運転の実現に向けた調査研究報告書(道路交通法の在り方関係)」において,説明されています。
この点については,別の記事で改めて解説したいと思っています。
次回は,改正のポイントの3つめとして,「作動状態記録装置」について見ていきたいと思います。
4 引用文献・参考文献
警察庁「技術開発の方向性に即した自動運転の実現に向けた調査研究報告書(道路交通法の在り方関係) 」2018年12月
道路交通執務研究会『執務資料道路交通法解説17訂版』東京法令出版,2017年
明治大学自動運転社会総合研究所「自動運転と社会変革-法と保険」商事法務,2019年7月
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