国連では,2017年9月会議から,自動運転に関する国際的合意に向けた議論が一気にスピードを増しました。
これは,それまで,1968年ウィーン条約は改正が施行されたにもかかわらず,1949年ジュネーブ条約は改正が施行されないという二つの条約のずれが生じてしまっていたために,しばらくその問題に対する対応の方法論についての議論をしなければならなかったところ,2017年3月会議で方法論に関する議論に決着がつき,2017年9月から本格的に実質的な中身の議論に取り組めるようになったからです。
今回は,本格化した自動運転に関する国際的合意に向けた議論を理解するため,2017年9月会議と2017年12月会議の議論の状況を見ていきたいと思います。
そうすることで,自動運転に関する今後の国際的議論の方向性がわかり,これを受けた今後の国内的議論の方向性がわかるようになると思います。
目次
1 2017年3月会議
前提として,WP1 (国連で道路交通条約についての議論を行っている機関)の2017年3月会議の概要を確認しておきます。
2017年3月会議では,従前の二つの道路交通条約を柔軟に解釈していけることについての指摘がなされました。
そのような理解を前提として,今後の方法論として,自動運転に関する国際的協調の中短期的な方法としては,「条約の改正」という厳格な手続きにこだわるのではなく,「non-binding advisory instrument(公式訳は不明ですが,直訳すると拘束力のない勧告的法的文書)」を策定していくという合意がなされました。
そして,実質的な中身の議論に関しては,いわゆるセカンドタスクについての2原則に関する合意がなされました。
なお,詳細については,前記事の「自動運転と道路交通条約~2017年3月までの議論状況」を参照してください。
2 2017年9月会議
2-1 自動運転に関する法的文書の策定作業
2017年3月会議の合意を経て,2017年9月会議では,①事務局,②議長,③ドイツ・日本・スペイン・オランダ・イギリス,④OICA(自動車業界の国際機関),⑤アメリカから,それぞれ提案文書が提出され,「non-binding advisory instrument」策定に向けた議論が本格的に始まりました。
なお,「non-binding advisory instrument」については,現時点で政府の公式訳が不明のため,この記事では便宜上「自動運転に関する法的文書」と呼んで話を進めます。
2-2 セカンドタスクの詳細化
2017年3月会議では,実質的な中身の議論に関して,いわゆるセカンドタスクについての2原則に関する合意がなされました。
2017年9月会議でも,この点が確認されるともに,この原則に関して,今後,より詳細化する作業を行っていくことが合意されました。
2-3 道路交通条約の適用範囲
また,2017年9月会議では,二つの道路交通条約の適用範囲について,ドライバーの役割一切なしにシステムが自動車を動かす場合以外の全ての場合に適用されるということが確認されました。
なお,この合意の趣旨については,単純に適用範囲の確認にとどまるものなのか,許容性の議論を踏まえたものなのか,私にはよくわかりません。
この点は,今後の議論の状況を確認していきたいと思います。
2-4 リモートコントロールパーキングの許容性
リモートコントロールパーキングの許容性については,2017年3月会議で議論されたものの,その際は合意に至っていませんでした。
これについては,2017年9月会議において,1958年協定の79.02のリモートコントロールパーキングについては道路安全を損なわないという合意がなされました。
ただ,これ以外の外部からの操作については,今後議論していくべきという合意がなされました。
2-5 道路交通条約の改正
2017年3月会議では,自動運転に関する法的文書の策定とは別に,1968年ウィーン条約の更なる改正の議論も出ていましたが,2017年9月会議において,現時点ではその必要はないということになりました。
3 2017年12月会議
WP1 は,これまで,年2回,春と秋に会議を開いてきました。
しかし,自動運転の議論が本格化し,2017年12月に自動運転の問題に特化した会議が開かれました。
この会議での議題は3点です。
いずれも,まだ実質的な内容面での合意には至っていないものの,各国から提案文書が提出され,議論が進められている状況です。
3-1 高度自動運転車両におけるセカンドタスクの詳細化
高度自動運転車両におけるセカンドタスクの詳細化の作業が進められ,この点に関し,日本は,フランス,オランダ,スペイン及びイギリスと共に提案文書を提出しました。
3-2 外部からの操作
2017年9月会議では,リモートコントロールパーキングの許容性についての合意がなされましたが,それ以外の外部からの操作についての議論が行われました。
日本は,この点について,フランス,オランダ及びイギリスとともに提案文書を提出しました。
3-3 完全自動運転車両
完全自動運転車両に関する作業も進められました。
日本は,この点についても,フランス,ドイツ,オランダ,スペイン及びイギリスとともに提案文書を提出しました。
4 理解のためのポイント
自動運転の法律問題に関する国際的議論は,複数の論点が並行して議論されている上,まだまだ各国において意見の違いがあり,非常に流動的なため,理解が非常に難しい状況にあります。
また,新しい技術に関する議論であるという難しさに加え,1949年ジュネーブ道路交通条約が改正施行に至らなかったということが原因で,解釈論で一定の弾力的解決をしなければならなくなっているところに難しさがあり,そのために議論がより一層複雑化しているように感じています。
ただ,道路交通法規に関する「driving task」「control」といった概念が自動運転導入に伴って柔軟に解釈されつつある点を理解することは,議論の理解のために有用ではないかと考えます。
解釈の変容については,3つの点に整理するとわかりやすいと思います。
1点目は,「driving task」を「operational」「tactical」「strategic」3つに分けて分析し,「strategic」を抽出して強調しているという点です。
この点は,今後人間の運転者の運転開始時点での行為に関してその義務と責任について検討していく上で意識すべき視点だと思います。
2点目は,「control」をする「person」が,人間の運転者に限られず,システムでもよいと考えられているという点です。
この点は,今後システムの製造者の義務と責任について検討していく上で意識すべき視点だと思われます。
ただ,この点の概念の柔軟化については,反対する見解もあります。
そのため,今後の国際的議論の方向性をきちんと追っていく必要があります。
3点目は,遠隔型操作も「control」に取り込んで解釈するという点です。
この点は,1点目と2点目とは異なる切り口の問題としてきちんと意識して分けて検討しなければならない思います。
このような概念の柔軟化を踏まえた議論は,2017年9月会議でドイツ・日本・スペイン・オランダ・イギリスが共同で提出した提案文書を読むとよく理解できますので,詳細に知りたい方は,この文書を読まれることをお勧めします。
5 参考文献
ECE/TRANS/WP.1/157- Report of the 74th session (21-24 March 2017)
ECE/TRANS/WP.1/159 – Report of the 75th session (19-22 September 2017)
ECE/TRANS/WP.1/S/161 – Report for the special session (6 and7 December 2017)
今井猛嘉「自動車の自動運転と運転及び運 転者の概念」『研修』No.822,p.3,2016年
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