第1回では,「運転以外の行為」に関し,①用語の確認,②問題の所在,③問題となる場面を整理しました。
今回は,「運転以外の行為」に関し,
①国際的議論(WP1)の状況
②国内的議論(警察庁有識者会議)の状況
を整理していきます。
1 国際的議論
「運転以外の行為」に関する国際的議論は,2016年頃から,国連の会議体の一つであるWP1で行われています。
まず,①「運転以外の行為」に関する議論の流れを説明します。
次に,②この議論が,ウィーン道路交通条約(日本未批准)だけでなく,ジュネーブ道路交通条約(日本批准)にも妥当するかについて説明します。
1.1 議論の流れ
2016年秋会議で,自動車がシステムによって運転されている間,運転者が「運転以外の行為」を行うことができるか否かについて検討する必要があることが指摘され,「運転以外の行為」についての議論が始まりました。
そして,2017年春会議では,「運転以外の行為」が許容されるために満たすべき2原則についての合意がなされました。
この2原則とは,
「運転システムにより車両が運転され、当該システムが運転者に運転操作を行うことを求めない場合は、運転者は次に適合する限り運転以外の行為を行うことができる。
原則1: それらの行為が、運転者が車両システムによる運転操作の引継ぎ要求に対応することを妨げるものではないこと
原則2: それらの行為が、車両システムの定められた利用方法,その定義された機能と整合的であること」(2018年警察庁報告書による仮訳)
です。
2017年秋会議では,この2原則を前提として,この2原則をより詳細化していくという方針について合意がなされました。
この合意を受けて,2017年冬の会議では,フランス,日本,オランダ,スペイン,イギリスが共同で,詳細化に向けた提案文書を提出しました。
そして,2018年春会議では,前記提案文書及び追加提出文書を基に議論がなされました。
議論においては,レベル3における車体備え付けの装置等を用いた「運転以外の行為」等について話し合いがなされました。
そして,具体的なエビデンスに基づく研究の必要性が指摘され,許容される又は許容されない「運転以外の行為」のリストを作成することの必要性は概ね否定し,審議継続となりました。
2018年5月会議では,既に提出された文書を修正した文書が提出されました。
修正した文書では,
「運転以外の行為」が許容されるために満たすべき枠組として
1 それらの行為が、運転者が車両システムによる運転操作の引継ぎ要求に対応することを妨げるものではないこと(原則1)
2 それらの行為が、車両システムの定められた利用方法,その定義された機能と整合的であること(原則2)
3 運転している国で適用される道路交通法規に従っていること
4 運転者の身体的・精神的能力を超えて活動を行なっていないこと
を示しています。
この文書では,「運転以外の行為」として許容される可能性のある活動の具体例を挙げています。
しかし,この文書は,
これらの活動のうちどの活動が上記4条件を満たすのか否か,つまり,
どの活動が許容されるか否か
については、あえて判断を示さず,研究に基づくエビデンスの必要性を指摘しています。
これらの文書を踏まえて、2018年秋会議で更に議論がなされる予定であり,同会議で合意に至るのか否かが注目されるところです。
1.2 ウィーン道路交通条約だけでなく,ジュネーブ道路交通条約にも妥当するか
次に,以上のような「運転以外の行為」の議論がウィーン道路交通条約だけでなく,ジュネーブ道路交通条約にも妥当するのかについて見ていきます。
この問題は,言い換えれば,レベル3とレベル4(運転手あり型)が,ウィーン道路交通条約だけでなく,ジュネーブ道路交通条約でも許容されるのかという問題ですので,極めて重要です。
重要なのですが,複雑な状況なので,正確に理解するため,この点に関するWP1の報告書を見ていきます。
2017年春会議では,2原則についての合意がなされているところ,このときの会議の報告書を見ると,明言はされていないものの,言及している条文の条項からすれば,ウィーン条約に関する議論としてなされています。
2017年秋会議では,2原則をより詳細化していくという方針について合意がなされているところ,このときの会議の報告書を見ると,非常に微妙な表現になっています。
2017年冬会議では,詳細化に向けた提案書が提出されているところ,この提案文書には,2原則がジュネーブ道路交通条約だけでなくジュネーブ道路交通条約にも関わるものであるという趣旨の文章が入っています。
2018年春会議では,提案文書と追加提出文書が提出されているところ,この追加文書には,2原則がジュネーブ道路交通条約だけでなくジュネーブ道路交通条約にも適用されることが2017年秋会議において合意されていたという趣旨の文章が入っています。
2018年5月会議では,既に提出された文書を修正した文書が提出されているところ,修正した文書でも,2原則がジュネーブ道路交通条約だけでなくジュネーブ道路交通条約にも適用されることが2017年秋会議において合意されていたという趣旨の文章が入っています。
この点,WP1に参加している警察庁は,2018年3月付け報告書において
「平成74回WP1(平成29年3月開催)及び第75回WP1(平成29年9月開催)の報告書(略)のとおり,緊急時又は限界領域(略)から出る際に運転を引き継ぐことが予定されている者が車両内に存在するものは両条約と整合的であることについて,コンセンサスが形成されつつある。」
と述べています。
このような状況を総合すると,
レベル3とレベル4(運転手あり型)が,ウィーン道路交通条約だけでなく,ジュネーブ道路交通条約でも許容されるということ
「運転以外の行為」の前記議論がウィーン道路交通条約だけでなく,ジュネーブ道路交通条約にも妥当すること
については,
①2017年秋頃からWP1における共通認識となりつつあったものの
②現時点ではまだWP1の会議体レベルでの正式文書として(解釈はともかくとして)明確には記載はされていない状況にあり
③2018年秋会議以降でWP1の会議体レベルでの明確な合意がなされれば,それをもって明確な国際的合意となる
という理解をすればいいと考えられます。
そのため,2018年9月に開催が予定されている次回会議でどのような合意がなされるのか,それともなされないのかが非常に注目されます。
2 国内的議論
「運転以外の行為」に関する国内的議論は,2017年度の有識者会議でなされ,2017年3月付けの警察庁の報告書で言及されています。
報告書は,国際的議論を踏まえて,
レベル3及びレベル4(運転手あり型)を検討対象として検討を加えています。
そして,レベル3については,
①緊急時の引継ぎ
②限定領域外に出る際の引継ぎ
という2場面をユースケースとして想定し
レベル4(運転手あり型)については,
①緊急時にシステムがリスク最小化を行った後の再発進時
②「限定領域外に出る際の引継ぎ」及び「引継ぎが行われず,システムがリスク最小化を行った後の再発進時」
という2場面をユースケースとして想定し,検討を加えています。
そして,「運転以外の行為」として考えられる行為を整理し
そもそも認められないと考えられる行為として「飲酒」
認められることが困難であると考えられる行為として「睡眠」
システムの性能によって認められ得ると考えられる行為として
「備付け装置による動画鑑賞等」「持込み装置による動画鑑賞等」「通話」「メール」
「食事等」
を挙げていますが,現段階では,個々の行為の許否についての明確な結論は示していません。
そして,報告書は,論点を整理するとともに,いくつかの指摘に言及はし,
「具体的な技術開発の方向性に即して,また,国際的議論の状況も踏まえつつ,我が国の実情に合わせて更に検討する必要がある。」
としています。
3 まとめ
以上,今回は,「運転以外の行為」について,現在までに,国際的・国内的にどのような議論がなされているのかを見ていきました。
簡単にいうと,国際的・国内的にも,議論は進みつつあるものの,結論までには至っていないという状況です。
次回は,「運転以外の行為」を検討する前提となる「運転者の義務」について検討します。
4 引用文献・参考文献
ECE/TRANS/WP.1/157– Report of the 74th session
ECE/TRANS/WP.1/159 – Report of the 75th session
ECE/TRANS/WP.1/S/161 – Report of the special session
ECE/TRANS/WP.1/163 – Report of the 76th session
ECE/TRANS/WP.1/S/165 – Report of the special session
Informal Document No. 4 – (France, Japan, Netherlands, Spain, and United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland),30 November 2017
Informal Document No. 7 – (France, Japan, Netherlands, Spain & United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland),15 March 2018
Informal Document No. 1 – (France, Spain, Finland, Japan, the United States of America and the Netherlands) Discussion paper on possible driver’s “other activities” while an automated driving system is engaged,26 April 2018
Informal Document No. 4 – (France, Spain, Finland, Japan, the United States of America and the Netherlands) Discussion paper on possible driver’s “other activities” while an automated driving system is engaged,26 April 2018
警察庁交通局「高度自動運転システムの実用化を念頭に入れた交通法規等の在り方について」,2017年12月
警察庁委託事業,みずほ情報総研株式会社「技術開発の方向性に即した自動運転の段階的実現に向けた調査研究報告書」,2018年3月
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