自動運転中にはどのような「運転以外の行為」が許されるのか④

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自動運転中にどのような「運転以外の行為」が許されるのかという問題について,4回にわたり,整理しています。

第1回では,①用語の確認,②問題の所在,③問題となる場面

第2回では,①国際的議論の状況,②国内的議論の状況を整理しました。

第3回では,「運転以外の行為」を検討する前提となる「運転者の義務」について検討しました。

第4回では,

①「運転以外の行為」を規定する意義

②規定の在り方

③レベル3と4(運転手あり型)での違い

④システムによるコントロールの視点

について検討したいと思います。

 

1 「運転以外の行為」を規定することの意義

レベル3及びレベル4(運転手あり型)を道路交通法上許容する場合,第一義的に規定しておくべきなのは,

「運転者にどのような義務が課せられるか」

ということです。

「運転者にどのような『運転以外の行為』が許されるか・許されないか」

は,副次的なことです。

「運転者にどのような義務が課されるか」について義務規定が置かれれば,一応,運転者がどうすべきかという行為規範は規定されていることになりま。

また,交通事故が起きた際の法的責任を考える上での前提となる義務規定もあることになり,法的責任の有無の認定はできます。

したがって,理論的なことのみ考えて,極論すれば,「運転者にどのような義務が課されるか」についての抽象的な規定のみを置いておき,交通事故が起きた際の法的責任については,個々の交通事故に判決における判断に委ね,今後の判例の積み重ねによって運転者の義務の内実が明らかになっていくことに任せることもできます。

 

しかしながら,自動運転に関しては,技術の発展が著しく,社会における考え方が急激な変化をしているため,判例の積み重ねを待つとすると,どのようなときに法的責任が問われるのかについての予想ができない状態で自動運転車両が運転されることになります。

そして,そのような状況は,「大胆な運転者」による「本来許容されない行為」を招くことになります。

また、その一方で、「慎重な運転者」が「本来許容される行為」を控える萎縮効果を招くことにもなります。

そこで、そのような事態にならないようにするためには、

「運転者にどのような義務が課せられるか」

ということに加えて

「運転者にどのような『運転以外の行為』が許されるか・許されないか」

ということを規定しておくことは有用と言えます。

また,道路交通法等で条文上規定しないまでも,この点についての議論を尽くし,共通認識を形成しておくことは,事故防止の観点等から重要です。

 

2 「運転以外の行為」の規定のあり方~リスト化の適否

では,「運転以外の行為」の規定はどのように規定していくべきでしょうか。

規定のあり方としては,2つのアプローチの方法が考えられます。

 

1つめは,運転者に課される義務の内容を,裏側から「運転以外の行為」として「表現」をより「具体的」にしたり「説明」を加えたりすることで明らかにしていくアプローチです。

WP1は,「運転以外の行為」の満たすべき2原則について合意し,その詳細化を目指して議論をし,WP1の2018年5月会議では「運転以外の行為」に関する文書に「運転以外の行為」が満たすべき4つの枠組みが示されていますが,そのようなアプローチです。

 

2つめは,「許容される具体的行為」と「許容されない具体的行為」をリスト化し,具体的義務規定を置くアプローチです。

WP1は,「運転以外の行為」として許容される可能性のある活動の具体例を挙げていますが,どのような活動が許容されるか否かについては,あえて判断を示さず,研究に基づくエビデンスの必要性を指摘しており,リスト化を差し控えており,現時点でこの2つめのアプローチはとっていません。

 

では,どちらのアプローチが望ましいのでしょうか。

1つめのアプローチは,結局はどこまでいっても解釈の余地が残ります。

そのため,運転者にとってのわかりやすさを考えるならば,一見すれば,2つめのアプローチが望ましいようにも思えます。

しかし,「許容される具体的行為」と「許容されない具体的行為」のリスト化のためには,WP1が指摘するようにエビデンスが必要であり,現状ではまだそのようなエビデンスが十分とはいえません。

加えて,ドライバーの能力には個人差があり,事故状況には異なる状況があるため,一般的には安全そうな「許容される具体的行為」であっても,ドライバーや事故状況によっては,反応が間に合わないということも十分考えられるため,「許容される具体的行為」をリスト化し,それを安全だという公の判断を示すことは危険を伴います。

また,「許容されない具体的行為」を明確にし,具体的義務として抽出し,具体的に禁止規定を設けるのは,「大胆な運転者」による「許容されない行為」を防止することにつながり,有用に思えます。

ただ,「許容されない具体的行為」をリスト化した場合,今度は「そこにリスト化されていない行為は許容されているのだ。」という反対解釈をする「大胆な運転者」が出てくる可能性が否定できないという危険を伴います。

そのため,「許容される具体的行為」と「許容されない具体的行為」のリスト化が望ましいとも必ずしも言い切れません。

仮に将来的にリスト化をするならば,その際にはドライバーがリスト化の意味合いについて誤解しないよう十分な啓発を行うという前提が不可欠になると考えます。

 

3 レベル3とレベル4(運転者あり型)における「運転以外の行為」の違い

常識的に誰でも感じることだと思いますが,レベル3とレベル4(運転手あり型)では許容される「運転以外の行為」は異なってきます。

このことは,2018年3月付けの警察庁の報告書においても,

「SAEレベル3の自動運転システムとSAE レベル4の一部の自動運転システムとでは運転者に求められる対応が異なることが考えられるため,許容されるセカンダリアクティビティの違い等について,更に検討する必要がある。」

と指摘されています。

この点をもう少し詳しく分析していきたいと思います。

 

レベル3では,運転者には,「作動継続が困難な場合に運転を引き受ける義務」が課され,システム作動時には「作動継続が困難な場合に対応できるようにしておく義務」が課されるのに対し,

レベル4(運転者あり型)では,運転者には,「限定領域外に出たときに運転を引き受ける義務」が課され,限定領域内では「限定領域に出たときに対応できるようにしておく義務」が課されるのにすぎません。

「作動継続が困難な場合」と「限定領域外に出たとき」では,前者は,予測が困難なのに対し,後者は,予測が比較的容易であるという違いがあります。

そのため,運転者自らの意識としても,システムによる事前の運転交代要請としても,実際の引き継ぎまでのリードタイムの確保のしやすさに大きな違いがあります。

 

レベル3では,「作動継続が困難な場合」に備えて,

「反応時間」に影響を与える「運転以外の行為」

「運転引継ぎ後の運転能力」に影響を与える「運転以外の行為」

の両方を控えるべきです。

これに対し,レベル4(運転者あり型)では,仮に,「限定領域外に出るとき」に

システムによる十分なリードタイムをとった上での事前の運転交代要請

②運転交代が遅れた場合の,システムによるリスク最小化対応

が技術的に確実に担保されるのであれば,

①「反応時間」に影響を与える「運転以外の行為」については控えることなく,

「運転引継ぎ後の運転能力」に影響を与える「運転以外の行為」(典型例としては飲酒)についてのみ控えればよいと考えることも可能になります。

 

なお,この点,前回も指摘したように,レベル4(運転者あり型)では,限定領域外に出たときに運転者が運転を引き受けない場合は,「自動運転システムが自動的に動的運転タスクの作動継続が困難な場合への応答を実行し,必要に応じて最小リスク状態を達成する。」ことになるのであるから,レベル4(運転者なし型)やレベル5と同様に「運転以外の行為」は無制限に許容していいのではないかという疑問があります。

この点は,「レベル4(運転者なし型)における運転者の義務」という切り口で次々回に詳しく書きたいと思います。

 

4 システム側からコントロールができるか否かという視点

「運転以外の行為」に関する議論においては,

システムが「運転交代要請」を行うと同時に,システムが強制的に運転者の「運転以外の行為」を終了させることができるか否か

という視点も重要です。

WP1においても,警察庁の有識者会議においても,この視点を意識しながら議論がなされています。

 

運転交代要請時の対応を確実にして事故を防止するという見地や,万が一交通事故が起きた際の責任の所在を明確化しておく見地からは,

システムが「運転交代要請」を行うと同時に,システムが強制的に運転者の「運転以外の行為」を終了させることができるか否か

すなわち,

①車両備付け装置,②車両物理的又は電子的にリンクされた装置を用いた『運転以外の行為』か

それとも

車両のシステムとは全くリンクすることなく別個に行う『運転以外の行為』か

は重要なメルクマールになってくると考えられます。

 

5 まとめ

以上,4回にわたり,「運転以外の行為」について整理してきました。

この問題は,法的観点からの抽象的な議論だけではなく,個々の行為について

①「反応時間」に影響を与える程度

②「運転引継ぎ後の運転能力」に影響を与える程度

についての客観的な研究が不可欠であり,この点についての研究の集積が大切です。

「運転以外の行為」についての議論は,非常に難問であり,国内外の議論の動きが著しいため,今後もそれらの議論に注目していきたいと思います。

 

運転中にはどのような「運転以外の行為」が許されるのか①

運転中にはどのような「運転以外の行為」が許されるのか②

運転中にはどのような「運転以外の行為」が許されるのか③

 

6 参考文献

ECE/TRANS/WP.1/157– Report of the 74th session 

ECE/TRANS/WP.1/159 – Report of the 75th session

ECE/TRANS/WP.1/S/161 – Report  of  the special session

ECE/TRANS/WP.1/163 – Report of the 76th session

ECE/TRANS/WP.1/S/165 – Report of the special session

Informal Document No. 4 – (France, Japan, Netherlands, Spain, and United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland),30 November 2017

Informal Document No. 7 – (France, Japan, Netherlands, Spain & United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland),15 March 2018

Informal Document No. 1 – (France, Spain, Finland, Japan, the United States of America and the Netherlands) Discussion paper on possible driver’s “other activities” while an automated driving system is engaged,26 April 2018

Informal Document No. 4 – (France, Spain, Finland, Japan, the United States of America and the Netherlands) Discussion paper on possible driver’s “other activities” while an automated driving system is engaged,26 April 2018

警察庁交通局「高度自動運転システムの実用化を念頭に入れた交通法規等の在り方について」,2017年12月

警察庁委託事業,みずほ情報総研株式会社「技術開発の方向性に即した自動運転の段階的実現に向けた調査研究報告書」,2018年3月

同概要,2018年3月

 

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