自動運転中にはどのような「運転以外の行為」が許されるのか①

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私が自動運転の法律問題を研究していると話すと,結構な頻度で「自動運転が実現したら,お酒飲んだ後に寝ながら自動車に乗って家まで帰ったりできるようになるんだよね。」と言われます。

しかし,私は,「いつか完全自動運転が実現するときがくればともかくとして,しばらくはまだそんな感じにはならないよ。」と答えます。

すると,「え!どうして!?」と尋ねられます。

「自動運転中にどのような『運転以外の行為』が許されるのか」という問題については,人によって持っているイメージがかなり異なっています。

この問題についての理解が不十分なままに自動運転が導入されていくと,事故を減少するはずが,反対に事故が増加することにもなりかねません。

そこで,これから4回にわたり,「運転以外の行為」の問題について理論的に整理していきます。

そうすることにより,「運転以外の行為」の問題に関する現時点での課題を明らかにしたいと思います。

 

1 用語の確認

自動運転中にする「運転以外の行為」を指す言葉としては,「二次タスク」「セカンドタスク」「セカンダリアクティビティ」「アザーアクティビティ(other activity)」というような複数の言葉があります。

現在,国連のWP1では「アザーアクティビティ(other activity)」という言葉が使用されており,警察庁は,「運転以外の行為」「セカンダリアクティビティ」という言葉を使用していますので,本稿では,「運転以外の行為」という言葉を使って説明します。

 

2 「運転以外の行為」は,なぜ問題になるのか

現在,国際的にも,国内的にも,「自動運転中にどのような『運転以外の行為』が許されるのか」ということが議論されています。

このことがなぜ法的に問題になるのでしょうか。

条約及び法律の文言を確認しながら見ていきます。

 

2.1 条約上の問題の所在

二つの道路交通条約のうちウィーン道路交通条約(日本未批准)の第8条第6項には

”A driver of a vehicle shall at all times minimize any activity other than driving.”

「車両の運転者は,常に,運転以外の行為を最小限にすべきである。」

と規定されています。

そのため,この「運転以外の行為」として,何が許されるのか,何が許されないのかということが問題になってくるのです。

また,もう一つの道路交通条約のジュネーブ道路交通条約(日本批准)には,同じ文言はありません。

しかし,ジュネーブ道路交通条約第10条には

”The driver shall drive in a reasonable and prudent manner.”

「車両の運転者は,常に,適切かつ慎重な方法で運転しなければならない。」

と規定されています。

そのため,どのような方法であれば,「適切かつ慎重な方法」といえるのか,言い換えると,どのような「運転以外の行為」をしていた場合に「適切かつ慎重な方法」でないと評価されてしまうのかということが問題になってきます。

 

2.2 法律上の問題の所在

道路交通法第70条には,

「車両等の運転者は,当該車両等のハンドル,ブレーキその他の装置を確実に操作し,かつ,道路,交通及び当該車両等の状況に応じ,他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。」

と規定されています。

そのため,どのような方法であれば,「他人に危害を及ぼさないような方法」といえるのか,言い換えると,どのような「運転以外の行為」をしていた場合に「他人に危害を及ぼさないような方法」でないと評価されてしまうのかということが問題になってきます。

さらに,「運転以外の行為」として想定される種々の行為のうち「走行中の携帯電話の使用やディスプレイの注視」については,具体的な規定として,道路交通法第71条5号の5に禁止規定がおかれています。

そこで,レベル3以上の自動運転の場合,この禁止規定を維持すべきか改正すべきかということが問題となってきます。

 

3 「運転以外の行為」が問題となる場面

国際的議論(WP1)においても,国内的議論(警察庁有識者会議)においても,「運転以外の行為」が問題となる場面は,2つに分けて整理されています。

1つは,レベル3(条件付き自動運転:全ての運転タスクをシステムが実行。ただし,要求に応じて運転者が反応。)です。

もう1つは,レベル4(高度自動運転:限定条件下で全ての運転タスクをシステムが実行。限定条件下では,運転者の反応は期待しない。)のうちの一部です。

 

この「レベル4の一部」について説明します。

レベル4は,大きく,2つの類型に分けられます。

第1の類型は,例えば,限定地域でのみ運行する無人バスのように,限定条件外での運転を想定していないようなレベル4です。

便宜上,この第1類型を「レベル4(運転手なし型)」と呼んで説明していきます。

第2の類型は,例えば,高速道路内でのみ運転者の反応の期待なしに全ての運転タスクをシステムが実行し,高速道路を出たら運転者が運転タスクを行うことを想定しているようなレベル4です。

便宜上,第2類型をレベル4(運転手あり型)と呼んで説明していきます。

「運転以外の行為」が問題となってくる「レベル4の一部」とは,レベル4(運転手あり型)です。

 

レベル2以下では,運転者は,出発から到着まで常に自動車の状態や周りの環境を監視し,安全に運転すべき義務を負っています。

そのため,レベル2以下の運転者は,「運転以外の行為」については,従来型自動車の運転者と同様に考えればよいということになります。

 

一方,レベル4(運転手なし型)でも,レベル5(完全自動運転:無条件で全ての運転タスクをシステムが実行。運転者の反応は期待しない。)でも,自動車に乗っている人は,反応は期待されていません。

そのため,レベル4(運転手なし型)及びレベル5の自動車に乗っている人は,従来型の自動車でいうと,バスやタクシーの乗客のような位置付けになります。

そのため,バスやタクシーの乗客のように,寝ていてもいいし,携帯電話を操作してもよく,自動運転中にどのような「運転以外の行為」が許されるのかということを検討する必要性がないということになります。

 

結局,「運転以外の行為」が問題となる場面は,

①「レベル3」

②「レベル4(運転手あり型)」

の二つということになります。

以上を前提として,次回,国内外の議論の状況を見ていきます。

 

自動運転中にはどのような「運転以外の行為」が許されるのか②

自動運転中にはどのような「運転以外の行為」が許されるのか③

自動運転中にはどのような「運転以外の行為」が許されるのか④

4 参考文献

警察庁委託事業,みずほ情報総研株式会社「技術開発の方向性に即した自動運転の段階的実現に向けた調査研究報告書」,2018年3月

同概要,2018年3月

Informal document No.4“Discussion paper on possible driver’s other activity while an autoated driving system is engaged”, 2018年4月

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