自動運転の実用化に向けた道路交通法の改正(4)

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2019年5月の道路交通法の改正について,4回にわたり,整理しています。

 

第1回 概要

第2回 「自動運行装置」「運転」の定義

第3回 「自動運行装置を使う運転者」の「義務」

について解説しました。

 

第4回の今回は,改正のポイントの3つめとして,「作動状態記録装置」について解説します。

1 従前の記録装置

「作動状態記録装置」について解説する前提として,まず,従前使用されてきているデータ記録装置として,どのようなものがあるかを説明します。

従前使用されてきたデータとしては,①ドライブレコーダー,②イベントデータレコーダー(EDR),③車載式故障診断装置(OBD)があります。

 

(1) ドライブレコーダー

ドライブレコーダーは,車外や車内の「映像」を記録する装置です。

映像により,車両の挙動,位置関係,運転者の挙動を把握できます。

しかし,ドライブレコーダーの映像のみでは,システムの作動状況等がわからないという問題があります。

 

(2) EDR

EDRは,衝突前後の自動車の作動状態を記録する装置です。

これにより,システムの作動状況,速度,加速度等がわかります。

しかし,EDRでは,衝突の程度によってはデータが保存されず,データ量も少ないという問題があります。

 

(3) OBD

OBDは,システムの故障の有無がわかる装置です。

これにより自動車のどの部分に故障があるかがわかります。

しかし,OBDでは,事故状況等はわからないという問題があります。

 

2 新設された条文

このように,現在あるデータ記録装置では,自動運転車が交通事故や交通ルール違反を起こしたとき,事故状況等を明らかにするには不十分です。

そこで,今回の改正で,自動運転車には「作動状態記録装置」に関して,2つの条文が設けられました。

 

(1) 使用者等の義務

まず,63条の2の2に自動運転車の使用者等の義務の規定が設けられました。

1項で,使用者等に,作動状態記録装置を設置する義務が規定されています。

2項で,使用者に,作動状態記録装置のデータを保存する義務が規定されています。

道路交通法63条の2の2(作動状態記録装置による記録等)​

1項 自動車の使用者その他自動車の装置の整備について責任を有する者又は運転者は,自動運行装置を備えている自動車で,作動状態記録装置により道路運送車両法第41条第2項に規定する作動状態の確認に必要な情報を正確に記録することができないものを運転させ,又は運転してはならない。​

2項 自動運行装置を備えている自動車の使用者は,作動状態記録装置により記録された記録を,内閣府令で定めるところにより保存しなければならない。​

(2) 警察官の権限

次に,63条に自動運転車が問題のある挙動をした場合の警察官の権限の規定が設けられました。

1文で,運転者に対する権限等として,

①車両の停止

②自動車検査証等の書類・作動状態記録装置の記録提示要求​

装置の検査

の権限が規定されています。

2文で,製作者等に対する権限として,

記録を人の視覚又は聴覚により認識することができる状態に​するための措置の要求​

の権限が規定されています。

道路交通法63条(車両の検査等)​

警察官は,整備不良車両に該当すると認められる車両(略)が運転されているときは,当該車両を停止させ,並びに当該車両の運転者に対し,自動車検査証その他政令で定める書類及び作動状態記録装置(道路運送車両法第41条第2項に規定する作動状態の確認に必要な情報を記録するための装置をいう。第63条の2の2において同じ。)により記録された記録の提示を求め,並びに当該車両の装置について検査をすることができる。

この場合において,警察官は,当該記録を人の視覚又は聴覚により認識することができる状態にするための措置が必要であると認めるときは,当該車両を制作し,又は輸入した者その他の関係者に対し,当該措置を求めることができる。​

 ​

3 データの内容

このように,今回の道路交通法改正では,作動状態記録装置に関する規定が設けられました。

そして,作動状態記録装置は,「道路運送車両法第41条第2項に規定する作動状態の確認に必要な情報を記録するための装置をいう。」と定義されました。

そこで,今後,国連のWP29における国際的な議論を踏まえて,道路運送車両法の下位規範である「国土交通省の道路運送車両の保安基準」において,作動状態記録装置にどのようなデータを記録していくかが決められることになります。

4 今後のデータのあり方

では,

具体的に,

どのような場合

どのような具体的項目

どのような時間の幅

データを記録するべきでしょうか。

データを使用する目的としては

交通ルール違反の責任主体の特定

安全確保のため,車両の修理・開発

③交通事故の民事責任のための調査・裁判

④交通事故の刑事責任のための捜査・裁判

に活用していくことということが考えられます。

これらの目的のためには,衝突時に限らず,できるだけ多くの項目を,できるだけ長いスパンで記録した方がいいということになります。

ただ,一方で,そうすると,その分,コストの負担が大きくなってくることになります。

このバランスをどうとっていくのかということが問題になります。

例えば,ドイツは,2017年の道路交通法改正において,「システムと運転者の操縦の交代時,システムからの操縦引受要求時,システムの技術的不具合時」に,「位置情報及び時刻情報」という最低限の情報の保存のみを法定化しました。

データ使用の目的を「①交通ルール違反の責任主体の特定に活用する」という目的のみとするならば,これで足りるといえそうです。

また,「②安全確保のため,車両の修理・開発に活用する」という目的のためには,法律で義務化するという選択肢のほか,個々のメーカーに任せるというのも一つの選択肢です。

しかし,「③交通事故の民事責任のための調査・裁判」「④交通事故の刑事責任のための捜査・裁判」に活用するということを目的としていくならば,「位置情報及び時刻情報」のみでは全く足りません。

自動運転車の交通事故の場合,従来型自動車の交通事故の場合と比べて,運転者が交通事故時の状況を把握できていないことが格段に多くなります。

そこで,事故原因解明のためは,作動状態記録装置を活用していくことが必要になってきます。

交通事故の民事責任・刑事責任を明らかにするという観点からは,事故原因の解明をするために必要な具体的項目等を作動状態記録装置に記録していくことが不可欠であり,そのための適切な規定が望まれます。

次回から,数回にわたり,今度は道路運送車両法」の改正について解説していきます。

5 引用文献・参考文献

警察庁「道路交通法改正試案」2018年12月

警察庁「技術開発の方向性に即した自動運転の実現に向けた調査研究報告書(道路交通法の在り方関係) 」2018年12月

道路交通法改正案2019年3月

泉眞樹子「ドイツにおける自動運転車の公道通行~第8次道路交通法改正~」『外国の立法』275号,2018年3月

明治大学自動運転社会総合研究所「自動運転と社会変革-法と保険」商事法務,2019年7月

中川由賀「自動運転車に関する刑事実務的問題点」『罪と罰』第56巻2号,日本刑事政策研究会,2019年3月

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