警察庁の報告書から自動運転の法整備の方向性を見る~前編

2018年4月,警察庁のWebサイトにおいて,自動運転に関する報告書及びその概要が発表されました。

自動運転に関係する法律で最も重要な法律の一つが道路交通法であり,その所管庁が警察庁ですから,警察庁の公表する報告書は,大変重要な意味を持っています。

ただ,この報告書は,本文が92ページ,参考資料を含むと240ページと大部ですので,読む際のポイントを整理してみました。

この報告書を読むと,我が国における法整備の方向性が理解できます。

なお,報告書記載部分と私見部分は区別して記載し,報告書の要約にはできるだけ正確を期すよう努めましたが,より正確な理解のために,原文に当たることをお勧めいたします。

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自動運転車の実用化のための課題~道路交通法規を交通の実情に合わせる

自動運転の実用化に向けた課題として,「道路交通法規を交通の実情に合わせる」ことが必要です。

なぜなら,従来型自動車の場合,ドライバーは,道路交通法規を守りつつも,交通の流れに乗るため,ときには交通事故を防ぐために,あえて道路交通法規より交通状況に沿った行動をとることを優先しています。

これに対し,自動運転車両の場合,メーカーは,開発段階において,道路交通法規違反をするような自動車を開発することはできず,あくまで道路交通法規を遵守するという姿勢を貫かざるを得ません。

そのため,自動運転の実用化のためには,「交通の実情に照らしたときに合理性に疑問がある規定」については,「道路交通法規を交通の実情に合わせる」ことが必須となってきます。

では,(1)道路交通法規のどの規定を改正することが必要でしょうか。

また,(2)そのような改正をすることは道路交通条約に反しないでしょうか。

(1)について,2017年3月の警察庁発表の報告書を基に概観し,(2)について,1949年ジュネーブ道路交通条約の条文を基に検討してみます。

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自動運転と道路交通条約~2017年12月までの議論状況

国連では,2017年9月会議から,自動運転に関する国際的合意に向けた議論が一気にスピードを増しました。

これは,それまで,1968年ウィーン条約は改正が施行されたにもかかわらず,1949年ジュネーブ条約は改正が施行されないという二つの条約のずれが生じてしまっていたために,しばらくその問題に対する対応の方法論についての議論をしなければならなかったところ,2017年3月会議で方法論に関する議論に決着がつき,2017年9月から本格的に実質的な中身の議論に取り組めるようになったからです。

今回は,本格化した自動運転に関する国際的合意に向けた議論を理解するため,2017年9月会議と2017年12月会議の議論の状況を見ていきたいと思います。

そうすることで,自動運転に関する今後の国際的議論の方向性がわかり,これを受けた今後の国内的議論の方向性がわかるようになると思います。

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自動運転と道路交通条約~2017年3月までの議論状況

道路交通条約

ドイツは,2017年,自動運転技術の発展に対応して道路交通法を改正しました。

しかし,日本は,まだです。

ドイツと日本は,いずれも自動車を基幹産業とする国でありながら,なぜこのような違いが生じているのでしょうか。

その大きな原因は,ドイツが批准している1968年ウィーン道路交通条約は,自動運転導入のための改正の効力が生じているのに対し,日本が批准している1949年ジュネーブ道路交通条約は,自動運転導入のための改正の効力が生じていないことにあります。

この問題を解決するために,WP1(国連で道路交通条約に関する議論を行っている会議体)では,2016年から2017年にかけて,活発な議論がなされてきました。

加えて,その間,それらの議論と並行して,更なる国際法規の整備に向けた議論が進められてきました。

今回は,その議論状況を見ていきたいと思います。

この間の議論状況を理解することにより,道路交通条約に生じた問題と現在の状況と今後の方向性がすんなりわかるようになります。

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自動運転と道路交通条約~従前の規定と2016年3月までの議論状況~

道路交通条約 WP1

自動運転に関する法律問題を検討するには,道路交通条約について理解しておく必要があります。

なぜなら,道路交通に関係する法律として最も重要な法律は,道路交通法であり,この道路交通法の上にある規定が道路交通条約だからです。

現在,国連において,自動運転技術の発展に対応していくため,道路交通条約に関する議論が急ピッチで進んでいます。

この議論を理解するため,今回は,道路交通条約の従前の規定と,2016年3月までの国連における議論の状況について確認していきたいと思います。

この点を理解しておくことで,現在の道路交通条約に関する議論の状況をすっきり理解できようになると思います。

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自動運転に関する国際的合意及び会議体の整理

 自動運転に関する法律問題を検討するには,道路交通に関する国際的合意について理解しておく必要があります。

 理由は2つです。

 1つ目の理由は,国際的合意は,日本国内の法律の上位規範であり,日本国内の法律問題は国際的合意の効力を受けるからです。

 2目の理由は,自動車は,国際的商品ですから,国際展開していく上で,国際的合意についての理解が不可欠な分野だからです。

 そこで,自動運転の法律問題を検討する前提として,道路交通に関する国際的合意と関係する会議体を整理しておきたいと思います。

 国際的合意について理解しておくことにより,議論がガラパゴス化していくことを防げると思います。

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技術者のための法律に関する基礎知識①~法的責任の種類

car speed crashing

専門が異なる者同士での会話は難しさを伴います。

原因の一つは,お互いの専門分野における基礎の基礎というべき部分の説明を経ないままに,応用的な話や最先端の話に入ってしまうためではないかと思います。

自分の専門分野において当たり前すぎることについては,そもそもその部分の説明が必要であることに気づかなかったり,「こんなことまでわざわざ説明するのは相手に失礼ではないか。」と思って説明するのを躊躇してしまったりします。

しかし,自動運転の法律問題に関して,異なる分野の方との会話が増えるにつれ,実は基礎の基礎の部分の理解こそが本質であり,お互いその部分を説明し合った上で,議論を進めるべきだと感じています。

そこで,法律を専門としない方のために,法律に関する基礎知識について,自動運転の法律問題を考えるに当たって必要と思われる範囲で,何回かに分けて説明したいと思います。

最低限これだけ頭に入れておけば,小難しく聞こえる法律の議論を聞いても,本質部分は掴めるようになると思います。

今回は,法的責任の種類について説明します。

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高度運転支援システムにおける指示説明の重要性

自動車工場

高度運転支援システムを備えた自動車が市場化され,交通事故の防止に役立つ一方で,アメリカではテスラの死亡事故が発生しています。

今後,日本でも,このような事故が発生し,自動車メーカーに対する製造物責任訴訟が起きる可能性が十分あります。

このような事故が起きる理由の多くは,ドライバーによるシステムへの過信であろうと思われます。

このような事故を防止し,訴訟を予防するためには,自動車メーカー等によるドライバーへの説明が重要になります。

そこで,自動運転者に関する製造物責任訴訟を念頭に置いて,自動車メーカー等によるドライバーへの説明の重要性について考えてみたいと思います。

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自動運転車に関する刑事上の責任と民事上の責任の違い

自動運転車

自動運転の導入に伴い,交通事故の法的責任については,法律の改正及び解釈の変容が必須となってきます。

刑事上の責任と民事上の責任とでは,「過失責任の原則」との関係で,法的責任のあり方についての議論の枠組みは異なってきます。

個々の議論に入る前提として,この枠組みを理解しておくことで,本質的なものから逸れない議論ができると思います。

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自動運転を論ずるために頭に入れておくべき8つの法律

Japanese law

自動運転に伴って生じる法律問題は多岐にわたっており,全体像を把握しながら検討を進めるには複雑すぎるようにも感じられます。

しかし,実際には自動運転の法律問題に関係してくる法律はさほど多くはありません。

主な法律は8つです。

この8つの法律を整理して頭に入れておけば,自動運転に伴う法律問題の議論を理解することができます。

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